2013/11/15

資料 2013/11/15  秘密保護法案、見えぬ指定対象

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 【佐藤達弥】国会で審議されている特定秘密保護法案では、「テロ活動の防止」に関する情報も特定秘密の対象にされている。最近は「テロ警戒中」などの看板をよく目にするが、テロ活動を防ぐための情報とは一体何なのか。各地を歩いて考えた。
大阪、奈良の府県境にまたがる金剛山(標高1125メートル)。今月初旬、山肌に広がる紅葉を望みながらロープウエーに乗った。
 「テロ対策は交通機関が果たすべき仕事の一つです」。ロープウエーを運営する大阪府千早赤阪村の担当者は言った。
 8合目の金剛山駅では、利用客がコインロッカーに入れる荷物に不審な点がないか目を凝らし、1時間ごとのトイレの見回りも欠かさない。高村昭彦駅長(51)は「2001年の米同時多発テロ以降、交通機関の意識は変わった」。
 ふもとの駅近くに発着する路線バスを運行する南海バス(本社・堺市)も、不審物を見つけたら乗務員に知らせるよう車内でアナウンスを流している。
 登山に来た滋賀県長浜市の会社員藤居志穂さん(20)は「中東の自爆テロなど世の中にはいろいろなことがある。テロ対策はあった方が安心」。大阪府柏原市の会社員横田亘(わたる)さん(55)は「市民がテロを意識するためにアナウンスは効果がある」と話した。
 大阪府摂津市の淀川河川敷では船着き場の耐震工事現場に「テロ警戒中」の看板、大阪市浪速区の幹線道路では電線などを通すトンネル工事の現場に「重点警戒中」の掲示があった。
 工事を発注した国土交通省近畿地方整備局の担当者に尋ねると、「テロ犯人への抑止力。重機や火薬が盗まれてテロに悪用されるのを防ぐのも目的」と答えた。03年のイラク戦争以降、同省発注の工事現場にはこうした看板を設置するよう業者に指導している。
 浪速区の工事現場近くを通りかかった男性会社員(29)は「息苦しいと言えば息苦しいが、安全が優先。目をつぶらないと」と話した。
 インターネットの投稿サイトには山間部や海岸にある同様の看板の画像が数多く掲載され、「あれってジョーク?」などの書き込みもある。
 法案は秘密指定の対象に「テロリズムの防止のための措置」を挙げる。大阪弁護士会で秘密保全法制対策大阪本部の事務局長を務める畠田(はたけだ)健治弁護士は「ロープウエーでの巡回頻度やバス、工事現場のテロ対策の内容は指定される可能性がある」と話す。
■行政側が事例決める
 テロ活動防止に関するどんな情報が「特定秘密」に指定されるのか。法案の規定や自民党がホームページで示す例だけでは想像しにくい。
 民主党政権時に秘密保全法制を推進する報告書をまとめた有識者会議の元委員、長谷部恭男・東京大教授(憲法学)に尋ねると、(1)捜査中のテロ容疑者に関する情報(2)捜査機関の情報網の内容――などを挙げつつ、「法律は抽象的な概念のみを示し、行政機関が具体的事例を決めることはよくある。今回も同様だ」と答えた。
 戦前の軍機保護法が言論統制に使われたように、行政側がテロ対策を名目に秘密の範囲を広げないか。長谷部教授は「戦前は政府だけでなく社会全体がおかしかった。いまは仮に恣意(しい)的な指定をしても、裁判や政権交代で見直される」。
 一方で、「捜査側が『引っかけ』ようと思えばできることは多い」とも指摘した。「捜査員の肩に触れただけで公務執行妨害容疑で逮捕されることがあるのと同じ。不当な捜査は秘密保護法の問題とは別だ」
■秘密の網、無限に
 《憲法やメディア法の研究者による法案反対声明の呼びかけ人になった森英樹・名古屋大名誉教授(憲法学)の話》 テロ対策というのは秘密の網を無限に拡大させるキーワードだ。スピード違反を撮影するカメラの位置も「テロリストを捕捉するため」といえば秘密指定できてしまう。
 米国が求めているのは米国が提供した秘密の保全法制だったのに、官僚が悪のりして秘密を無制限に拡大させようとしている、とも考えられる。恣意(しい)的に指定しないと言っても、そもそも何が秘密か分からなければ検証のしようもない。
 野党は秘密指定をチェックする第三者機関の設置を求めているが、そのメンバーが政府に都合のいい人選になる可能性もある。機密保護は、自衛隊法国家公務員法など現行法制で十分対応できる。
■取材記者の視点 境界線あいまい
 どこまでがテロ防止に関わる特定秘密になるのか。その境界線ははっきりしない。14日の国会審議で、森雅子担当相は「グレーゾーンの範囲もなるべく少なくして明確化していく」と答弁した。だが法案が成立すればまさに何が秘密かが秘密になる。境界線を引く権限は行政に一任され、外部のチェックは入らない。こうした問題がある中、法案を成立させていいのだろうか。


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